ドバイのヨガ雑誌『Yogalife』2015年9月号の
デービッド・ロシュ先生のインタビュー掲載記事を
デービッド・ロシュ先生と『Yogalife』のご協力により、
日本語訳記事を掲載します。(翻訳:宮村葉)
HANDS ON with David Roche
デーヴィッド・ロシュとの学び
70歳のアシュタンガヨガ・マスターが
初めてのドバイ訪問で語るヨガライフとは
デーヴィッド・ロッシュは世界的なシニア・ヨガ・ティーチャーの一人である。さまざまな国で40年以上に渡って指導を行い、長年インドのマイソールで彼の師である、かのシュリ・K・パッタビ・ジョイスのもとで学んだ。全世界で45人しかいないサーティファイド・ティーチャーの一人である彼がドバイを訪れ、「アシュタンガヨガ・ドバイ」の生徒たちと共に、彼のプラクティスと指導の哲学―「神は細部に宿る」をシェアする。
—他のヨガではなく、アシュタンガヨガを始めたきっかけは何ですか?
「私はそもそもダンサーをしていました。マーサ・グラハムのテクニックはダンサーのトレーニングとしては、非常にヨガ的なベースを持ったもので、私はそれを学んでいました。同じポーズの繰り返しであり、連続したポーズのシリーズをシンプルにより合わせたものを毎日練習します。アシュタンガヨガのようです。同じトレーニング・プロセスを何年も続けていくのです。19歳の時にスタートして、アシュタンガヨガに出会った50代まで続けました」
—現在のヨガ界の多くの部分は本質的ではなく表面的に感じられます。これについてはどのように認識していますか?
「世界的に起きていることの反映です。都市においての経済的活動は凄まじいものがあると感じます。それを否定することはできません。そして人というのは何かを始める時、自分になじみのあるところからスタートするしかありません。もしヨガのプラクティスが人々の興味を刺激するならば、彼らは自然と深く探求していくことでしょう。もしそうでなければずっと同じレベルに留まりますが、だとしても問題はありません、少なくともスタートとしては」
—なぜ世界中でヨガは人気なのでしょうか?
「それは役立つからです。一般的に人々は感情的な、もしくは肉体的な痛みからヨガを始めます。これまでの過程で何かが上手く行かなかったのです。例えばそれは腰痛かも知れないし、何かのトラウマかも知れませんが、しかし大体の場合、これらは身体内の調整の狂いが原因で起きています。そして薬物に頼らずとも、ヨガが身体の再調整を手助けするものだということが解ったのです。
アシュタンガは、マドンナのようなセレブリティがオプラ・ウィンフリー・ショー(アメリカの人気トーク番組)などのテレビ番組で話したことで、喧伝され人気になりました。私がグルジ(シュリ・K・パッタビ・ジョイス)のもとでアシュタンガを始めた90年代始めの頃は、30人ほどの生徒が出入りしているのみでした。私は3年ほどそこで過ごしましたが、その後90年代の終わり頃には、300人もの生徒がクラスに参加するようになっていました」
—ヨガの身体的な側面のみを実践し続けることは可能だと思いますか?
「もちろん。クリシュナマチャリヤと彼の息子デシカチャーは「ヨガは科学である。なぜなら科学的に検証可能だからだ。」と言っています。その人が望まないのであれば、インド文化の宗教的側面を掘り下げなければいけない、などという理由はありません。しかし遅かれ早かれ、皆さんはメディテーション、そしてヨガの精神的な側面に出会うことになります。皆さんの身体とマインドに対する気づきが変化するにつれ、皆さんの意識も自然と拡張されます。ヨガが皆さんを変化させます。「何をすべきなのだろうか?」などと思い悩む必要はありません。ただ続けるのです。自分の毎日のプラクティスを」
—ヴェーダやパタンジャリのヨーガ・スートラを学ぶ必要はありますか?
「これも同じです。皆さんが興味を感じる度合いが、そこに割く時間を決めます。アシュタンガヨガに関して言えば、若い人達はその身体的な部分に魅かれると思いますし、深いレベルを突き詰めるかどうかは、性格的なタイプもあると思います。ほとんどの身体的活動によく見られるのと同じく、競争的な部分がありますが、それは特に悪いことではありません。現状に甘んじるのではなく、自身の可能性に働きかけるということがそこから始まるのですから」
—クラスではバックベンドのアジャストメントを行う際、実際的でとても細部にこだたわったアプローチを行っています。それはなぜでしょうか?
「それは、皆さんが全身を使った後屈を覚える必要があるからです。ただ単に背中だけを曲げるわけではないのです。脚のアーチ、それが脊柱へと至ることに気づくために、膝の感覚を持ちながら脚の上部からアーチを描くやり方を覚える必要があるのです。
背中を曲げ始めると多くの人によく起こるのは、膝の存在が忘れ去られることで、それによってアーチが限定されてしまいます。胸を引き上げながら動いていくと同時に、尾骨を引き上げておく必要があります。虹のアーチのように。これは後屈を学び始めたばかりの時にはなかなかできませんし、感じとるには長い時間がかかります。例えば落ちてしまうかもしれないというような、内面の恐れを乗り越える必要がありますし、自分はできるのだという自身への理解と信頼も必要です」
—ヨガの必須要素としてのメディテーションについて意見をお聞かせください。
「グルジはプラクティスそのものがメディテーションであるといつも言っていました。マインドをフォーカスさせることで、プラクティスを深く行うことで、メディテーションへと至る。自身のマインドの中心に居続けることで、私たちはメディテーションを実践しています。これ以外にその他の伝統的なメディテーションの方法を実践するかどうかは各々のチョイスです」
—プラーナヤーマの重要性についてお聞かせください。
「グルジは「26クンバカ」という、さまざまなプラーナヤーマからなる一連のシリーズを指導していました。身体的なプラクティス同様、一定のシークエンスに則って行われ、特定のチャンティングが共に行われます。アドバンスドAシリーズを習い終えた生徒のみが、指導を受けました。
私が知る限り、ヨガ実践者のうちごく少数のみがプラーナヤーマをの実践を維持し、深く掘り下げ続けています。アイアンガーヨガの実践者がそうですね。アシュタンガヨガではあまりいません」
—あなたは過去に、アシュタンガヨガは、プラクティスをただ何度も繰り返すだけではマンネリに陥ってしまうとおっしゃいました。それについて詳しく教えてください。
「私たちは習慣化された行動に陥らないように務めています。私についていえば、特定の方法を行っています。膝に問題がある場合、もしくは肩に問題がある場合、そのような時は、自身が身体で行っていることを通して、これを修正できる方法を楽に体得できるよう模索します。プラクティスを行う時、スリヤ・ナマスカーラから始まり、プラクティス全体を通して、私はそれを追いかけ続けます。それによって集中の状態がもたらされますし、またそれ自体がヒーリングでもあります」
—グルジがかつて「これらのポーズは危険だよ」と言ったことを、あなたは60歳になった時にその意味に気づいたと言っていましたよね。
「私がアドバンスド・シリーズの練習を始めたのは52歳の時で、それは前代未聞のことでした。アドバンスド・シリーズを練習したいと、グルジに自分から願い出るほど私はエゴに突き動かされていて、グルジはあっけにとられていました。その時に「これらのポーズは危険だ」とグルジが言ったのです。私がシリーズを始めたいと懇願したところ、グルジは「君を見ていることにする」と言いました。そしてアドバンスドAをスタートするまでの数ヶ月、私をただ見ていました。そして私が始められると彼は確信したようですが、しかし同時に私が他の生徒たちよりも年齢が上なので、私にはインターミディエイト・シリーズを全て練習させ、その上で他の全てのポーズを加えていきました。ですから私はいつも一番最初に部屋に入り、一番最後に部屋を出ていました。75個もポーズを行っていたのですから」
—長年指導を行うことで魅力的な人になれると思いますか?
「そう願ってます。妻と共に指導していた頃は、彼女がおだやかで、私が厳しかったと思います。私が規律を厳しく求める側で、彼女は生徒たちと楽しく幸せに過ごす側だったと思います。今は私たちは違う道に進んだので、私がどちらの役割も果たす必要があります。生徒に身近に感じてもえるよう支えることは、わたしにとっては生徒との関係性においての新しい取り組みです」
—輪廻転生を信じますか?
「解りません。なるようになるとだけ思っています」
—カルマを信じますか?
「ええ、私たちの行動が私たちの所有物であり、それが私たちの持つ全てであり、もちろん全ての行動には結果が伴うと、確実に信じています」
マイソール・スタイルでアシュタンガヨガのプラクティスを行うことについては、経験せずにそれを理解することはとても難しいものですが、しかしここでマイソール・クラスについて一般的なことをいくつかご紹介します。
・呼吸音と時折ある講師の指導以外は、静かな空間で行われる。
・全てのレベルの生徒たちが隣り合ってプラクティスを行う。
・講師は生徒ひとりひとりに個別に指導を行う。それによって生徒は自身に適切なペースで進むことができる。
・ポーズの順番を覚え、そのセットを毎日プラクティスする。生徒の準備が整った時に新しいポーズが徐々に加えられる。
・各々のプラクティスにどれぐらい時間がかかるかによって、6:30-10:00のいつからでもクラスに加わることができる。
HANDS ON with David Roche by courtesy of YogaLife Middle East this article first appeared in the September 2015 issue of YogaLife Middle East.
translation Yo Miyamura
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